

何もしない時間が、こんなに心地よいと感じたのは、いつ以来だろう。
大きな窓から差し込む朝日。風が抜けるテラス。森に囲まれたお風呂。
この家では、ただ過ごすだけで、からだの奥からゆっくりと力が抜けていきます。
この建物は、家具が柱を兼ねて、家そのものを支えている。
家具で空間が仕切られているから、風と光が自由に行き交い、どこにいても開放感がある。
気がつけば、いつもより深く眠り、いつもより早く目が覚める。
そんな時間の流れ方を、少しだけのぞいてみてください。
私たちの「家具の家 No.1」との出会いは、2023年の夏のことでした。森の中にひっそりと佇むその空間に、私たちは自然と引き寄せられました。初めて足を踏み入れたとき、目に飛び込んできたのは、整然と並ぶユニット家具と、その上に軽やかに載る屋根。家具がそのまま家を支えている——それは建築というより、空間に浮かぶ「構造そのもの」のようでした。
この家は1990年代に設計されました。設計者は、後に世界的に活躍する建築家として知られる人物です。この建物を特徴づけるのは、家具ユニットがそのまま構造体となっていること。家具は屋根を支え、壁となり、空間を仕切っています。
この家が建つ別荘地は、かつて日本を代表するクリエイターたちが自らの居場所を設けて別荘を建てた場所でしたが、老朽化により徐々にその姿を消そうとしています。そんな中、この建築家によって設計された3棟のうち、2棟は老朽化で取り壊されてしまいました。
「家具の家 No.1」も、修復を必要としていました。湿度の高い環境が、長年にわたり基礎部分に影響を及ぼしていたのです。2024年の冬、私たちは、屋根と家具の構造体を残したまま、腐食が進んだ基礎と床をすべて入れ替えるという修復作業を行いました。家具が宙に浮いたまま床を解体した姿は、この家の構造を体現するようでもありました。
実際にこの家で時間を過ごしてみると、空気の流れや光の移ろい、そして音の吸い込み方までが、家具によって誘われていることに気づかされます。内と外の境界は限りなくゆるやかで、風は自由に通り抜け、建築は静かに呼吸しているように感じられます。
人が使い、風が動き、建築が呼吸する——そんな体験に、私たちは心を奪われました。ただ眺めるだけでなく、実際に泊まり、静かな時間の流れのなかで、構造体としての家具に囲まれる不思議な感覚を、多くの人に体験してもらいただきたい。そうすればこの家は、腐ちることなく、これからも長く息づいていくことでしょう。
家具の家No.1 運営委員会

家具が構造体として機能する

家具を残した基礎と床の修繕課程




この別荘地は、1960年代後半に開発されました。この地が特徴されるのは、当時日本を代表するクリエイターたちが、近代日本を代表する建築家や、後に世界的な評価を得る若き建築家達に、自身の別荘を創造的な実験の機会として設計を依頼し、さらには分野を超え互いに刺激し合うコミュニティを形成していたことでした。
しかし時が経つにつれ、これらの貴重な建築群は少しずつ姿を消し、それに伴い、その記憶や文化的価値もまた失われつつあります。この地の持つ豊かな物語と、それが日本のクリエイティブシーンに与えた影響を深く認識し、未来へと語り継いでいくことが私たちの願いです。



